府中市の自衛隊研修はナンセンス

 読売以外では何故か報道されていませんが(故、飛ばし記事の可能性もあり)、行政が自衛隊研修をさせるというニュースがあります。

 東京都府中市は今年度から、入庁3年目の市職員全50人を自衛隊に2泊3日で体験入隊させる。
 研修の一環で、同市は「厳しい規律の中で『ゆとり世代』の若手職員を鍛え直したい」とその意義を強調。ただ、識者からは否定的な意見も出ている。

 研修は同市内にある航空自衛隊府中基地で実施。事務職、技術職、保育士職の全員が6月の平日3日間を使い、災害時の救助活動やあいさつ、行進などの基本動作の訓練を行う。
(中略)
 市職員課は「規律に厳しい自衛隊の訓練を通じて、ゆとり世代があまり経験していない上下関係を学び、チームワークや積極性などの向上につなげたい」としている。
「ゆとり」市職員、空自で鍛え直し…3年目研修 読売新聞 2016年05月26日

 さて、この記事が事実だと仮定して、自衛隊研修を行う場合の問題点をいくつか。

①「『ゆとり世代』だから劣っている」という根拠のない妄想に基づいている
②自衛隊のような管理教育じみたものがこれらの職業に対し効果があるのかが大きな疑問
③仮に②で書いた事に効果があると仮定しても、3日間は短すぎる
④厚労省が定義するパワーハラスメントに当たる可能性もある

 まず、①については学力以外に比較可能な統計結果がそもそも存在しませんし、そもそも「ゆとり教育」が従来の教育と違うものは「学習時間と内容を減らし、経験重視型の教育方針にする」という、あくまで学力に関わるものでしかありません。「ゆとり世代があまり経験していない上下関係」というものは、職員の妄言といっても過言ではないでしょう。
 なお、蛇足かもしれませんが、「ゆとり教育」による学力低下も本来は怪しいのが実情です。(参考:「ゆとり世代」学力低下はウソだった ~大人たちの根拠なき差別に「ノー」を! 「ゆとりって言うな!」_後藤和智 現在ビジネス)
 ②についてですが、歴史的に見ても、自衛隊のような管理教育的なものが馴染むのは、トップの決定に盲目的に従うのが是とされる全体主義的な組織や国家のみです(参考:信州大学の資料「スパルタとアテナイ」)。災害や有事に集団で備える必要がある自衛隊や消防隊みたいなものであれば、ある程度の意義はあるのでしょうが(尤も、これらも管理教育的な研修だけを行うわけではなく、必要に応じ、専門性の高い普通の研修も行なう)、保育士職は個人でとっさの判断も必要ですし、他の事務職、技術職にも、全体主義が馴染むとは思えません。
 そういえば、昔あるニュースで「ネット依存症の恐怖」という特集を行っており、仕事もせずにネットゲームばかりやっている男性を取り上げていましたが、その男性は元自衛官と書かれていました。このニュースがやらせの可能性も否定できませんが、事実であれば、自衛隊に入る事で、チームワークや積極性などの向上に繋がるとは限らないと言うことができるでしょう。

 ③については、言うまでもなく期間が短すぎる事です。これについて長く書く必要はないでしょうが、この程度では思い出作り程度にしかならないでしょう。
 そして、④について。たとえ研修であっても、「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制」は厚生労働省が定義したパワーハラスメントに当たります(参考:厚生労働省 パワハラについてまとめたページ)。事務職員や保育士職員等に、自衛隊での研修が必要である根拠はないので、パワーハラスメントという訴えが認められる可能性も十分にあります。
(参考:業務に関係のない過酷な研修で「社員の精神力」を鍛えようとする日本企業 j-cast

 そもそも、根拠のない思い込みで、効果があるか分からない上に、パワーハラスメントとして訴えられるリスクすらあることを、税金を使ってやる事自体が非常にナンセンスとしか言いようが無いでしょう。幸い、ネット見た限りでは批判している人のほうが多数に見受けられますので、もし研修が事実であれば一刻も早く中断することを期待します。

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