「ノー残業手当」は悪用される危険性はないか

 スーツ量販店の「スーツのはるやま」が、残業しない社員に支給するノー残業手当制度を取り入れたとあります。

全国各地に約500店舗展開するスーツ販売店「スーツのはるやま」の運営会社・はるやまホールディングスが1月12日、月間の残業時間がゼロだった社員に対して1万5000円を支給する「No残業手当」制度を2017年4月から導入することを発表した。残業した場合でも、残業代が1万5000円未満の社員には、差額を上乗せして1万5000円を支給する。
(中略)
同社は現時点で社員に対して残業代を全額支給しているが、「No残業手当」制度導入後も引き続き残業手当は全額支給する。この制度の導入によって、社員に支給している残業代を年間8000万円程度圧縮できる見込みだ。また、社員に支給する「No残業手当」は年間1億8000万円を見込んでいるという。

「ノー残業手当」なぜ導入? スーツ販売大手が残業ゼロで1万5000円支給 The Huffington Post 2017/1/16

 一見、良い取り組みに見えますし、筆者も、記事を読んだ限りで好意的に解釈すれば、良い取り組みには感じます。但し、この制度が単純に合法であるとなると、この制度を悪用する会社が出てくるようにも思えます。
 例えば、元来基本給16万円住宅手当2万円+残業代の会社が、この制度を取り入れて、基本給16万円住宅手当5千円(1万5千円減額)で、減額分をノー残業手当にした場合、結果的に残業代がカットされます。なお、こういう労働者にとってデメリットしかない変更は、労働者との合意なしにはできませんが(労働契約法9条「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」より)、労働組合が強くない組織においては、基本給や実質の賃金は変わらない旨を伝えれば、容易に通ってしまう可能性が高いです(尤も、基本給でも平気で下げる会社がいまだにありますが)。そうなると、あからさまな違法行為ではない為、徹底的な証拠を集めて裁判で闘うなりしない限り、ひっくり返すのは難しくなります。
 また、新規事業立ち上げや、後から入ってくる労働者に対しては、元来の契約がない分、より容易にこの制度が適用される事が考えられます。言ってしまえば、法的にグレーな固定残業代に近い事が合法的に行われるという事です
 記事を読む限り、「スーツのはるやま」はあくまで手当としており、減額をしたという旨はありませんし、年間の費用を見た限りでは、1億円分多く還元しているみたいなので、悪用でないことを願いたい所ですが、この制度の悪用は十分考えられるので、評価は慎重になったほうが良いでしょう。 そもそも、過重残業の原因は、権限のない社員の意識だけではなく、労働生産性の落ちる過剰なサービスや、元請下請の問題等、社会的に解決しないといけない物が複合的に重なって出来たものですから。 

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