AV出演強要はブラック企業の手口そのもの

 AV出演を強要された女性が警視庁に相談し、強要に関わったAV制作会社の経営者らを労働者派遣法違反で逮捕したというニュースが流れてきました。

 所属の女性モデルをアダルトビデオ(AV)に出演させるため制作会社に派遣したとして、警視庁は13日までに、労働者派遣法違反容疑で、AVプロダクション「マークスジャパン」(東京都渋谷区)の元社長村山典秀容疑者(49)=東京都世田谷区代沢=や社長の古指隆士容疑者(50)=同区宮坂=ら3人を逮捕した。同庁保安課は認否を明らかにしていない。
 逮捕容疑は2013年9月30日と同10月1日、所属するモデルの20代女性を「公衆道徳上有害な業務」に就かせる目的で、AV制作会社に派遣した疑い。撮影は神奈川県内で行われた。
 同課によると、女性は09年、マークスジャパンとモデルとして契約したが、契約書について詳しい説明や写しを受けられなかった。
所属モデルをAV撮影派遣=プロダクション元社長ら逮捕-警視庁 時事通信 2016/6/13

 労働者派遣法にある「公衆道徳上有害な業務に就かせた」容疑と記事にありますが、警視庁が認否を明らかにしていない為、別の可能性もあります。
 なお、公衆道徳上有害な業務に就かせたという条文は、労働者派遣法第58条「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者は、1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する。」です。なお、こちらは職業安定法63条にも似た条文があります ※1。
 まあつまり、今回の容疑はAV出演が「公衆道徳上有害な業務」とみなされたからなのですが、それについての解説は別の方にお任せします。今回の判例からすると、AV全てが禁止になるような事ですが、その問題について記す事は労働関係の問題から大きく外れるので。
 さて、今回別の記事にある、女性を出演させた手口について。

 関係者によると、今回、警視庁に相談した女性はグラビアモデルとして平成21年に契約。ところがその後「AVの撮影をする」と告げられて、撮影現場に連れられた。女性は拒否したが契約を理由に「違約金を払え」「親に言うぞ」などと迫られ、数年間にわたり繰り返し出演せざるを得なかったという。

「違約金を払え」「親に言うぞ」とAV出演を強要… 横行する悪質な勧誘や契約 業者の常套句は「誰にもばれない」  産経新聞 2016/6/12

 身に覚えのない、不当な違約金を払わされる事はブラック企業で良くある手口です(例:【生きる 働く 第6部】ブラック企業 現場の叫び<4>業務委託悪用し酷使)。なお、労働基準法第16条において、労働契約の不履行について、賠償金を払わせることは禁止となっております。法もあり当然ですが、このような賠償金は司法によってほとんど無効となっております。
 また、上記の記事では、契約書自体は存在したものの、詳しい説明も写しもないというのも、契約を口頭ですませる事が多いブラック企業の手口に似ています。労働者側にとって著しく不利な契約があるにも関わらず、労働者側がきちんと理解できないようにして、不利な契約を押しつけられるという被害は、被害例が多すぎて一例を挙げきれない程です。
 なお、民法第95条では、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」とあり、一方に正しく内容を理解させないような契約は錯誤があったとして無効となる可能性が高いです。また、契約が事実と違う場合は、求人詐欺の記事でも書いたとおり、一方的に契約破棄が可能です。
 また、言うまでもなく、脅迫を行うことは刑法第222条に当たります。

 尤も、現状では、労働問題に直接関わるような容疑がかけられているわけではありませんが、たとえこれがAVでないとしても、あからさまに触法行為になるような箇所は山ほどあります。筆者としては、これが労働問題としても警視庁が動き出す事を願うばかりです。また、貧困問題、社会的承認の問題にも大きく繋がる話であるのは間違いないため、これらの問題も絡めて対策を考えるべきでしょう。


※1
職業安定法第63条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する。
一 暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者
二 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者

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