「お妊婦さま」という下らない言葉で、妊娠した女性の権利をはく奪してはならない

 yahoo!に「お妊婦さま」という造語をもって、「妊婦の一部が制度を悪用している」とでも言いたげな記事が掲載されましたが…。
(以下、注釈なければ「マタハラ防止で出没しはじめる、お妊婦さま!(小酒部さやか氏 株式会社 natural rights 代表取締役)」より引用)

私は企業向けにマタハラ防止セミナーを行っている。ここ最近、企業の人事担当者から相談があるのが” お妊婦さま問題”だ。
「妊娠した女性が周囲にパワハラをしているので注意すると、その女性から“マタハラだ”と言われてしまったがどうすればいいか」「妊娠した女性が体調不良を訴え休職したいというので替わりに派遣社員を雇ったら、今度は働けると言い出したので業務を与えると“その仕事はできない”とえり好みするのだがどうすればいいか」などという相談が今まであった。

 この冒頭の書き出しから、特に後者は必ずしも妊娠した側の女性に非がある問題とは言い難いものに感じますが…。そもそも、妊婦さんの重労働は流産の危険性もあるので、できない仕事を断るのは当然で、その配慮がない場合はパワーハラスメントにあたるのは言うまでもないのですが。

社員のA子さんに大きなミスが続いたので、上司が2人で話す機会を設けた。今まではミスについて素直に受け止めていたA子さんだったが、この日は言い訳ばかりを並べ認めない。それどころか、自分の就いていた職に対し「こんな役職、最初からやりたくなかった。役職から降りたい」と言い出した。普通なら降格や退職もやむを得ない相談事項に上がると思うが、A子さんは「私、妊娠しました」と報告し、妊娠を機に強気な態度に変わった。降格や退職はマタハラにあたると考えたのである。

 この事例も、そもそもミスの責任をA子さんに押し付けている上に(他の原因があるかもしれないのに)、単に要求を出しただけなのに「ふつうは降格や退職もやむを得ない」と書いている地点で、これの筆者が労働法の基本も理解していないのが明らかです。言うまでもなく、解雇は「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められること(労働契約法第16条)」とあり、降格も含め簡単には出来ません(但し、「役職から降りたい」と言っているため、降格は本人同意の上有効になる可能性が高い)。

社長が直接の話し合いの場を設けると、B子さんは「給与が払えないなら休職し傷病手当金をもらいながら産休育休まで繋ぎたい。この組織体制では働きたくないので転職したいが、育休復帰後に転職する」という。社長が「産休育休までは繋げるから、育休後に転職するという同意書を書いてくれるか」と相談しても、それも「マタハラだ」と口外された。

 これは会社の話し合いの前に外部組織に相談しており、そのあと社長と話し合いを行い、こうなったという事例ですが、これこそB子さんに落ち度はありません。そもそも、会社組織が傾いたからといって、給与が満額払えないのは違法行為(労働基準法24条1項「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」)ですし、それや身勝手な言分を以ってマタハラと言い振らされるのは、やむを得ないでしょう。

中小企業を経営する女性社長と、社員C子さんはほぼ同時期に妊娠した。C子さんはメインの外部取引先に、女性社長の妊娠を初期段階から漏らしてしまった。女性社長はC子さんに注意したのだが、「取引先はすでに気付いていて不信がっているから」と言い返してくる。仕方なく女性社長は妊娠初期から取引先に公表する羽目になった。
同じ頃、女性社長がC子さんの妊娠を会社のアドバイザーの1人に報告し、今後のC子さんの業務をどうすべきか相談していた。するとC 子さんは女性社長に「社長の妊娠を外部に伝えることは注意しておいて、私の妊娠は勝手に伝えるのか」と抗議してきた。
産休育休取得のために必要な人物に「妊娠を報告する」のと、社長の妊娠を「外部に公表する」のとでは全く話が異なる。これをC子さんは理解できなかった。結局、女性社長の妊娠を取引先に公表したことで、この取引がなくなるきっかけとなってしまった。

 これも、そもそも「社長の妊娠を外部公表してはいけない」という契約がなかったわけですし、妊娠がきっかけで取引がなくなったのであれば、そもそもが取引先によるマタハラにあたります(但し、雇用関係ではない為、これを無効にするには民事裁判を行う必要があり、無効になるかも難しい所ですが)。

 これらのような正当な権利の主張を、経営陣が「気に食わない」という理由だけで叩き、下らない造語を作ったこの筆者こそが、「妊娠した女性の権利」を悪用しているといってしまって問題ないでしょう。

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